小山菁山氏 (京都三曲協会会長)

邦楽ばなれ

 京都三曲協会とは、流派を問わず、箏、尺八、地唄三味線の演奏家、教授家が集まりまして邦楽振興に積極的に活動している団体です。現在会員700名。定期公演をはじめ、二条城築城400年祭や東山花灯路などにも出演しております。

 日本の絵画や文学などさまざまな芸術のなかにあって、日本音楽たる邦楽はかなり特殊なものとされています。そのようになった理由のひとつは、明治以降、外国から入ってきた西洋音楽が、その国際的な性格を過信し、学校教育の中心になったことがあります。そのため、西洋音楽が基本で、日本音楽が特殊で未発達なものだという観念があるようです。これは、教育体系をつくる当時、箏や三味線は遊興の音楽だとか、尺八は虚無僧音楽だとかいう偏った評価があったためです。

 しかしながら、日本音楽は、古くから完成されていた芸術です。近世箏曲の父といわれる八橋検校はバッハより前に活躍した人で、バッハが生まれた年(1685年)に亡くなっています。他にも地唄や生田流箏曲など、江戸時代の古典邦楽のほとんどは京都で作られております。このように邦楽の歴史はこんなにも古いのです。

 

邦楽教育

 日本人には「もののあはれ」という独特の感性があるように、微妙な違いを聞き分ける力があります。箏、地唄三味線、尺八などで微妙に違う音色を表現するのが邦楽です。

 現代人は、邦楽や伝統音楽とは関連のないところで生活しています。子供たちもピアノやバレエは習っていても、琴、三味線、日本舞踊、謡いを習っている子は希です。ますます邦楽離れが進んでいます。

 技能を習得するのに臨界期というものがあり、その年齢以下で経験させなければ、以後いかなる努力をしても身につかないといわれています。昔から、「芸事は6歳の6月から始めるとよい」というように、日本の伝統音楽、伝統芸能を何か一つでも子供たちに習わせてほしいと思います。

 同時に、神社・仏閣、町家などの演奏会場や稽古場を安価で開放していただくこと、次世代の後継者育成を真剣に考えていただくことを提言します。

 私ども邦楽家の責務は、日本で進化し、完成された日本独自の音楽を守り育てることだと自覚しています。



谷口親平氏 (姉小路界隈を考える会事務局長)

全国に誇る町式目で、より良いまちづくりを

 「姉小路界隈を考える会」では、この町に住み、働く人々に愛され、誇りに思える町づくりをめざしています。

 御池通〜三条通、寺町通〜烏丸通間の姉小路界隈は、姉小路盆地と称するように、周りを高いマンション・ビルに取り囲まれるなかで、容積率167%程度の中低層の建物が残っています。

 寺町の鳩居堂さんのところから烏丸の新風館まで、およそ700m。このエリアには、24時間営業の店や、分譲マンションは1軒もなく、不法駐輪や落書きもきわめて少ないという、京都の中心街では珍しく静かなたたずまいを残しています。

 ことの起こりは、12年前、11階建ての容積率400%のマンション建設計画が持ち上がり、自分たちの町が壊されるとの危機感のもと、住民のマンション建設反対運動から、この「姉小路界隈を考える会」が発足致しました。運動は功を奏し、建設計画は一旦、白紙となり、その後、住民と事業者が一緒になって協力し、京都市民のためになり、事業者の顔が見え、地元住民が誇れるような建物にしようと2年間17回の協議を重ねて建設に着手しました。

 このマンションは、耐用年数100年間をめざすスケルトン・インフィル構造や屋上菜園、スリットから自然な光や風や雨が降り込む等、様々な工夫を随所にこらしてあり、職住共存地区における集合住宅モデルの先取りとなっています。

 ところが、隣接して次から次へと新たな高層マンション建設計画が浮上、町を守るため何かしなければならないと危機感がつのりました。

 我々の地域のとある家に、江戸時代の町衆の自主ルールを定めた町式目が存在しており、これを現代風6ケ条にアレンジし、「姉小路界隈町式目(平成版)」をまちかど等に掲げています。

 これを基本理念として、1軒1軒を説得し、2.5ヘクタール、101軒の同意のもと、平成14年に建築協定を締結致しました。京都市都心部のなかでは最大規模の協定区域だと思います。

 このようにして、新しく転入してきた住民、新しく建物をつくる事業者と連携しながら、まちづくりを進める体制が整いました。

 私たちの地域で、町式目ともうひとつ誇れるものがあります。それは木彫看板が姉小路界隈に数多く集積しているということです。北大路魯山人、富岡鉄斎、武者小路実篤、山本竟山・・・といった名だたる書家・文人が看板を書いています。これらの看板は、先祖がつくったお店を今日の店主が懸命に創業者精神を日夜大切にして、まさに「看板に偽り無し」という姉小路界隈ならではの景観を受け継いでいる証であるといえるでしょう。

 このようなすばらしい町景観のなか、看板をライトアップし園児、児童、生徒達やお年寄りの描画による550基の行灯による「灯りでもてなす姉小路界隈」や「街角コンサート」、「花と緑でもてなす姉小路界隈」という催しも行っております。

 電信電話事業発祥の地は新風館に生まれ変わり、ベロタクシー日本初デビューの基地にもなっています。京都でのガス事業発祥の地では、まちづくりのシンボルとして24時間ガス灯が赤く燃えています。歩いて生活し、歩いて楽しむ、環境や人々に優しいまち姉小路界隈を愛して下さる方々がおいで下さることをお待ちしています。(http:www.aneyakouji.jp)



松山大耕氏 (妙心寺塔頭退蔵院副住職)

外国の旅行者に本格的な文化体験を

 本日は、観光というテーマでお話をさせていただきます。京都市は、観光客5000万人の目標に着々と近づいています。国内からの観光客数はあまり伸びていませんが、海外からは着実に伸びています。

 外国の観光旅行者にはふたつありまして、ひとつは、中国、台湾、韓国といったアジア圏の方々で、昔の日本人の団体旅行のイメージがぴったりで、旗もって、大勢で、3泊ほどの短期間で、ばぁーと来て、ぱっと帰るという感じ。

 もうひとつは、欧米の方々で、少人数で、1週間ぐらいの滞在型で、文化、伝統を知ろうという旅行者です。ただ、建物をみる、ただ、おいしいものを食べるだけでは満足されません。深く知りたい、自分で体験したい、そういったニーズが増えております。

 そこで、このような旅行者に対して、私ども退蔵院では、精進料理、座禅、抹茶、書道など、本格的な文化を体験していただこうと企画しています。

 「観光」とは、光を観る、つまり、われわれのもっているすばらしい文化・伝統、そういった光をみなさんにお観せするという意味です。

 最近、お寺で、ファッションショーやコンサートを開催されています。一般に広くお寺を開放しようとする点はわかりますが、内容によっては、別にお寺でなくてもいいではないでしょうか。長続きしないのではないでしょうか、と思うものもあります。それぞれのお寺のもつ、今、一番いいものをそのまま出せばよいと思います。

 というわけで、わが寺では、精進料理、座禅、庭、書道、抹茶で楽しんで頂いているわけですが、ただ、退蔵院一寺だけがやってもあまり意味がないと思います。東京でもんじゃ焼といえば月島。神戸で中華料理といえば中華街といわれるのは、月島にはもんじゃ焼の店が、中華街には中華料理店がそこにはいっぱい集まっているから効果があるのです。したがいまして、退蔵院だけに留まらず、他の京都の寺社に対しても伝統・文化をそれぞれに発信してほしいと思います。そうして、単なる1個の光ではなく、たくさんの光が集まって初めて、この京都というところが魅力ある都市になると思うのです。

 もっとも、語学や設備など様々な問題ありますが、まずは私が実績を積み、ノウハウを周囲に提供したいと思いです。いろいろなところで、いろいろな面白い試みがあって初めて、「日本を旅行するなら京都に行こう」という吸引力になると思います。