基調講演:NPO法人気候ネットワーク代表 浅岡 美恵 氏

テーマ:「環境から見た京都創生〜京都議定書誕生の地としての更なる課題」

 本日は、地球環境、温暖化の問題におきまして、KYOTOがとても重要な地位をしめておりますことを紹介させていただきます。

 

危うし京都議定書

 京都議定書が採択されて、今年2007年の12月11日でちょうど10年を迎えます。しかしながら、この京都議定書は、その採択にあたっても難航を極め、また、採択後の各国の批准にあたっても、これまで幾度となく崩壊の危機に瀕してまいりました。これまでの国際政治の実情を思えば、存続し続けてきたことが奇跡といっても過言ではありません。

 現在、私たちは、様々な活動をするうえで、エネルギーを消費し、二酸化炭素等の温室効果ガスを排出して、豊かな生活を謳歌しています。そのことにより、地球温暖化を引き起こしてしまいました。今、二酸化炭素の絶対量を削減しなければならないし、減らすことに経済的価値を与える、そういう大きな時代の方向転換を、世界各国で約束したのが、京都議定書です。

 1997年、京都議定書は、会議日程を延長し、みなさん2日くらい徹夜するなど先の見えない会議は難航を重ねて、ようやく採択されました。さらに、2001年にはブッシュ政権の離脱宣言という大きな衝撃が走りました。しかし、絶大な影響力をもつ米国がどうであれ、議定書を発効させようとの各国の合意、この画期的なボン合意でかろうじて次のステップへ進むことができました。

 しかし、第2の危機として、当の日本国内で、経済界などからの反対により批准が危ぶまれ、米国抜きではメリットがないとロシアの批准が遅れました。などなど幾多の危機を克服して、ようやく京都議定書は2005年2月に発効しました。

 

第3の危機

 議定書発効でようやく動き出したところですが、今、第3の危機に見舞われています。

 世界は、2013年からのポスト京都議定書の約束に踏み出そうとしていますが、問題は日本です。

 2007年6月ハイリゲンダムサミットで、欧州各国は2050年までに世界全体で50%削減(英国やドイツは60%〜80%削減)し、2020年などの中期目標も国民に示し、炭素税の導入や大規模事業所について国内排出量取引を開始しています。これに対して、日本は、経団連の抵抗が強く、2013年以降の目標を国内で合意できず、2012年までの6%削減のための具体的な政策を全く打ち出せていません。

 来年2008年には、日本でG8サミットが開催されますが、このままでは日本が主導して合意をつくっていくことは難しいといわざるを得ません。このように、国内に反対意見が根強いなか、重要な役割を担っているのが京都と東京です。東京都は国に代わってしっかりとした温暖化政策をとるとしていますし、京都も議定書発祥の地として地域政策を進め、日本の温暖化政策を押し上げようとしているところです。京都議定書に盛り込まれた総量での排出削減を実行していく方策は温暖化対策に不可欠の仕組みであり、日本が京都議定書を葬ってはなりません。

 

進む温暖化とバックキャスティングの考え方

 世界の科学者によると、今後、気温上昇を2度程度に抑えることが必要であり、2050年までに世界全体で少なくとも二酸化炭素を50%以上削減して自然吸収量の範囲にとどめ、大気中の濃度を安定化させなければなりません。ただ、このように排出削減を実行しても、気温上昇は続き、2℃程度の上昇に抑制することも大変難しい状況です。このような大幅削減ができなければどうなるのでしょうか。既に、ヒマラヤをはじめ世界の氷河が大幅に後退し、北極海の氷も急速に減少しています。また、京都でも誰もが実感されているとおり、夏には35度を超えるような猛暑の日が増加し、雨の降り方が極端になってきました。舞鶴では台風による洪水でバスが水没したことは記憶に新しいところです。南の珊瑚礁からなる国々では、海面上昇により国が確実に沈んでいきます。天の橋立も同じ状況にありますし、もともと東京や大阪など海に面した地域に人や財産も多く、日本でも深刻な問題なのです。

 「フォアキャスティングからバックキャスティングへ」と書いていますが、右肩上がりの時代は、これまでの取り組みの延長線上で努力することで時代を開いてきました。しかし、それが無理であることが明らかになり、逆に、望ましい将来を予測して今からそこに辿りつくように取り組む時代になったのです。温暖化を人類に危険なレベルにまでしないために、二酸化炭素を大幅に削減しなければなりません。私たちは今、低炭素社会の暮らしの姿を描き、科学者の警告に従い排出削減を実現していくための政策措置を選択し、実行することが求められているのです。

 

京都の役割

 日本の温暖化対策をリードする東京と京都。温暖化によって、山紫水明の地、京都の姿も変わっていくでしょう。京都らしさを残し、守っていくために、これまで以上に自然との共生を考え、バイオマスや自然エネルギーを活かしたまちづくりを進める必要があります。

 現在、日本の経済界やアメリカのブッシュ政権は、各国の目標を、二酸化炭素の総量ではなくエネルギー効率の改善に替えたいと考えています。しかし、技術の革新による効率改善が進むことは重要ですが、それだけではエネルギー消費量や二酸化炭素の排出量を減らすことにはなりません。また、単に消費を我慢するというのではなく、文化的な「低炭素社会」を築くという新しいビジョンを作り出すことこそが求められているわけです。

 そのために、すべての主体が取り組むことが必要です。京都では、KESという中小事業者の環境活動を支援する新しい取り組みがなされており、現在、京都発で全国へ広がりつつあります。一般家庭でも、家づくりで保温性を高め、機器の買い換え時には省エネ性能の高いものを選択し、それを大事に使う生活スタイルを身につけていかなければなりません。

 行政は、市民・事業者と協働して長期目標と社会の将来像を描き、まちづくりから取り組むことが重要です。例えば道路の3分の1は自転車専用レーンとすることなどで、自動車に過度に依存しないまちづくりを発信できるでしょう。京都の市民・事業者と行政が協働して温暖化防止に取り組む先駆けとなることが、京都議定書を2013年以降も継続させ、温暖化から世界を救うことに繋がると思います。世界が温暖化防止に大きく動こうとしている時代に、日本が後れを取ることがないように、議定書発祥の地、京都からのメッセージを発信し続けていただきたいと期待しております。